発注側も受託側も知っておくべき著作権の基本知識
著作権という言葉はよく聞くが、実際にどのようなものなのかは曖昧に感じている人は多いのではないでしょうか。デジタル技術の発達によって、従来と比べて多くの人が非常に多様な表現ができるようになりました。そのため、著作権に関する問題が発生しやすい状況が生まれています。
企業の商用目的で利用する制作物に関しても、著作物となり、著作権は発生することがあります。著作権の目的を理解し、著作権を守ることの意味を考えたことがあるマーケティング担当者やプロモーション担当者はとても少ないように思います。変化の激しい昨今は、ルールが事後的に制定されることもあるでしょう。そのような時代においては、基本的な法律の知識を身につけること、倫理感を養うことはどちらも同じくらい重要なことではないでしょうか。
日々の雑務に追われ、雛形の契約書でとりあえず業務委託契約をしているというマーケティング担当者、法務に任せきりになっているプロモーション担当者も多いでしょう。
本来は業務を一番把握している担当者が、誰よりも契約はどのようにあるべきかを把握しているはずです。法務部に任せきりだったり、マニュアル通りに契約を進めたりするのではなく、20代のうちに法律を踏まえた上で契約書を判断できるレベルに成長することが望ましいでしょう。
受託側、発注側が著作権を正しく理解するために、著作権の基本知識となる部分を紹介します。ぜひ、実務に活かせるように、著作権の理解を深めていきましょう。
1. 著作権の目的
著作権とは、「著作者が著作物を独占的、排他的に利用できる権利」です。特許権等と同じ知的財産権の1種であり、著作権法で保護されています。著作物とは、詳しくは後述しますが、思想又は感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます。著作物とはどのようなものかというと、私たちが毎日の生活の中で楽しんでいる小説、音楽、絵画、地図、アニメ、漫画、映画、写真等が該当します。
著作権の根拠となる著作権法の目的は、「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」と定められています。
つまり、著作権法では文化の発展のために著作物という「表現」を保護することが目的です。ちなみに特許法は産業の発展を目的として「発明」を保護することです。
著作権制度は、このような著作物を生み出す著作者の努力や苦労に報いることによって、日本の文化全体が発展できるように、著作物の正しい利用を促し、著作権を保護することを目的としています。
著作権を守ることによって、日本文化の発展につながります。一人ひとりの力は微力かもしれませんが、もしコンプライアンスが緩い会社に在籍していたとしても会社と同化せずに会社の利益だけでなく、日本社会という広い視点を持ち、著作権に関してシチュエーションにおいて自分の意見や判断を持てるようになりましょう。
著作権の内容は、著作権法によって大きく次の二つに分けて定められています。一つは、著作物を通して表現されている著作者の人格を守るための「著作者人格権」、そしてもう一つは、著作権者が著作物の利用を許可してその使用料を受け取ることができる権利としての「著作権(財産権)」です。 「著作権(財産権)」と「著作者人格権」について、確認していきましょう。
2.著作権財産権と著作者人格権
下図で示したように、広義の著作権には「著作者の権利」と「実演家等の権利」が含まれます。
「著作者の権利」には、著作財産権と著作者人格権があります。
著作財産権とは、一般的にいう著作権のイメージに近く、著作物から財産的な利益を確保するために、複製、上映、公衆送信、展示等を独占的、排他的に行う権利です(著作者の死後も一定期間持続)。著作財産権として保護の対象になるため、著作権者の許諾を得ずに著作物をコピーしたり、動画やイラストの中で使用したりすることは禁止されています。
著作者は、著作物の利用者から使用料を得ることができ、その報酬をもとにして、また新しい著作物を生み出すことができるという好循環が育まれます。
著作者人格権とは、著作物を公表する権利(公表権)、著作者名を表示・秘匿する権利(氏名表示権)に加えて、著作物を勝手に改変されない権利(同一性保持権)を定めています。 著作者人格権は著作者の一身に専属する権利とされているため、他の人に譲渡することはできず、著作者の死亡(法人の場合であれば解散)によって消失します。著作者が死亡した後も、著作者が生きていれば著作者人格権の侵害となるような高位は基本的に禁止されています。
3.著作権の対象
著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」を指します。著作権法で例示されている著作物には、小説、脚本、論文、音楽、舞踊、絵画、建築、地図、模型、映画、写真、プログラム等があります。
言語の著作物…論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など
音楽の著作物…楽曲及び楽曲を伴う歌詞
舞踊、無言劇の著作物…日本舞踊、バレエ、ダンスなどの舞踊やパントマイムの振り付け
美術の著作物…絵画、版画、彫刻、漫画、書、舞台装置など(美術工芸品も含む)
建築の著作物…芸術的な建造物(設計図は図形の著作物)
地図、図形の著作物…地図と学術的な図面、図表、模型など
映画の著作物…劇場用映画、テレビドラマ、ネット配信動画、ビデオソフト、ゲームソフト、コマーシャルフィルムなど
著作物ではないもの
単に事実を伝えるものやデータそのものは思想または感情の範囲ではありません。
模倣、盗用したものは創作とは言えません。
理論や法則等のアイデアは、表現を伴わないので著作物に該当しません。
Q&A企業での業務でよくある制作物の著作権は誰のもの?
Q. 企業のキャラクターの著作権は誰のものでしょうか?
一般公募、制作依頼、自己制作のいずれの場合にも、キャラクターを創作し、表現した人(著作者)に「著作権」という権利が発生します。
イラストレーターやデザイン会社に制作を委託した場合
キャラクターの制作を依頼する場合、原則として、キャラクターデザインの著作権は制作を受託したイラストレーター個人もしくはデザイン会社である法人に帰属します。 そこで、キャラクターデザインの著作権を譲り受けるか否か等、著作権の帰属や業務内容を明確化しておくために、キャラクターデザインの依頼者とキャラクターの制作者との間で「業務委託契約書」を結んでおくとよいでしょう。
基本的には、著作権を譲り受けることは一般的ではないと認識しておく方がいいでしょう。例えば、広告代理店を変更する場合は、彼らが作ったキャラクターは一切使えなくなります。広告代理店を変更してもキャラクターを使いたいというのは、企業側にとって虫のいい話で、通常はあり得ないと思っておくといいでしょう。
企業としてはキャラクターの改変などにお金をかけたくないから、買い取りたいと思ったとしても、それが双方にとって本当に良いことなのでしょうか。
自分の勤めている小さいな世界で、小さいな視界で考えず、取引先の成長と自社の発展とのどちらをも達成するにはどのような契約がいいのか考えましょう。会社と同化するのではなく、社会のためという視点を忘れないことが大切です。
Q.会報誌で、カメラマンによる写真撮影を制作会社にアサインして、とても良い写真をとっていただきました。写真をチラシでも使いたいという話になりました。この場合はどのような対応を取るべきでしょうか。また、写真の著作権は誰にあるのでしょうか。
基本的にはカメラマンが著作権を原始取得します。会報誌への掲載についての利用許諾を受けているとしても、新たにチラシについての利用許諾を得る必要があります。
職務著作に該当する、または著作権の譲渡が為されていれば制作会社が著作権者となることがあります。著作権のマネジメントを行う広告代理店やマーケティング会社も存在するでしょう。FLOURISHでは著作権をマネジメントする方針です。
4.著作権の発生と所在
著作権の発生と所在については下記の通りです。
著作権は著作物の創作によって生じる
特許権等とは異なり、登録や審査の必要はない
著作権も登録が可能だが、登録は著作権の成立要件ではなく第三者対抗要件である
著作権は著作を行った人(著作者)が取得する
企画立案者、資金提供者、発注者等は著作権を取得しない
著作権を譲渡する契約は可能だが、著作者人格権は譲渡できない(詳細は次の記事)
著作権を譲渡する以外に、著作物の利用を許諾するという方法もある
実際の契約においては、著作権の扱いは
著作権の帰属は受託者
著作権ごと買取
著作権を共有
の3パターンのどれかにあたります。
著作権ごと「買取」する場合は、二次利用も考慮し、その分お値段も上がることが通常です。
著作権の管理を含めてトータルのプロジェクトマネジメントを委託する場合、将来に渡ってブランドマネジメントを依頼する場合は、著作権の帰属は受託企業にすべきでしょう。その場合は、マネジメント契約が切れた場合、著作物は利用できなくなることが一般的です。
感覚としては、CMのイメージキャラクターとして起用するタレントは出演契約書で使用期間が定まっていて、期間が切れたら使えなくなります。それと近しい感覚でブランドマネジメント契約が切れたら、著作物が使えなくなるということはとても普通の感覚です。
よく転職してきた役員や部長が就任すると、マネジメント先を変更することがありますが、やった感を出すために変更するとその先も上手くいかないことが多い印象を受けているので慎重になるといいでしょう。
5.著作権の制限(例外)
また、著作権法では、文化的所産の公正な利用という観点から、著作者の権利を制限し、許諾を得ずに利用できる場合を個別に定めています。例えば、家庭内で仕事以外の目的のために使用する場合は、著作物を複製することができ、同様の目的であれば,翻訳,編曲,変形,翻案も認められています。
著作権法では、著作権の効果が及ばない例外が認められています、主な例外を下記に一部抜粋しました。
例外1 私的(個人的または家庭内での)使用のための複製は禁止されていない
私的使用の目的であっても、コピーガードのような複製防止技術を解除して行う複製や、著作権の侵害に当たると認識して行うダウンロードは認められない
家庭の枠を超えて職場や学校の課外活動で用いる資料の作成のために著作物を複製することは、営利目的ではないとしても私的使用には当たらない
動画配信サービスやホームページ、ブログ等への掲載も私的使用とは認められない
例外2 写真や映像等への写り込みで複製を伴わないもの
例外3 機械による解析(AI開発用の学習データとしての利用等)
例外4 引用 引用として認められるためには形式上のルールに従う必要がある
主従関係が明確であること、引用部分が他と明瞭に区別されていること、引用をする必要性があること、出典が明記されていること、改変しないこと
引用部分の方が多くの分量を占める場合などには著作権法違反となる可能性がある
その他にも様々な例外が定められているため、著作物を利用する場合には確認が必要です。例外は25種類以上もあります。
6.著作権が侵害された場合
著作権法上、どのような行為が著作権侵害に該当するかという明確な規程は無い
一般的には、正当な権利が無いのにもかかわらず著作物を利用する行為が著作権侵害にあたると考えられている
著作権の侵害に対して民事上の救済を求めることができる
民事上の請求には著作権侵害を止めるため、または予防するための差止請求と、著作権侵害による損害の賠償請求がある
損害賠償請求のためには、著作権の侵害を受けた側が、侵害をした側の故意、過失を立証する必要がある
著作権を侵害する行為は刑事罰の対象となる
著作権の侵害の態様によって、告訴が無ければ起訴できない親告罪と、告訴が無くても起訴することができる非親告罪がある
7.著作権に対しての捉え方
著作権は創作物のような表現を保護する権利であって、文章、音楽、イラスト、写真、動画、プログラム等様々な形式の表現が対象となります。 著作権は、審査や登録の必要が無く、創作の時点で作者に帰属します。著作権の帰属を契約による買い取ることも可能ですが、著作者人格権は著作者から譲渡することはできません。 著作権侵害は損害賠償や刑事罰の対象となるため、正しい知識を持って著作物を利用する必要があります。
一番の重要なことは、他の法律でも同様ですが、その法律の目的の理解です。著作権の目的とは、著作権法では文化の発展のために著作物という「表現」を保護することです。文化の発展のために考えられた法律であることを理解し、どのような契約が文化の発展にとってベストプラクティスなのかを考えられるようになりましょう。
著作権についての情報提供:佐藤翔(佐藤行政書士事務所)