事例で考える著作権-動画制作を依頼した場合
広告代理店や小規模事業者や個人として活動するクリエイターは、著作権の管理に対する意識は低くなりやすい現状があります。そもそも著作権に対して正しい知識を持っていないということも往々にしてあるでしょう。
もしくは、受託側や制作側が自分たちは弱い立場であるという潜在意識があり、「著作権なんて言い出したら面倒なヤツと思われて次の仕事は来なくなるのではないだろうか?」と思い込んでいるような商習慣があることも要因かもしれません。
逆に発注側の事業会社は「とにかく買い取りたい」「所有物を増やしたい」など、目先の都合の良い選択をしたいと考えてしまう担当者や責任者が多いことも。「お金を出しているんだから、著作権はこっちのものである」という意識は知識が乏しい人の発想です。
さらに、著作権侵害は民事上、刑事上の責任追及を受ける可能性があり、事業者の信用に取り返しのつかないダメージを与える可能性もあります。この記事では実務上よくある動画制作の外注を例に著作権に関する注意点について解説します。
発注側の企業は、著作物を自分たちにとって都合よく使えることにフォーカスした交渉をするのではなく、著作者へのリスペクトや継続的な良好な関係構築のため、どのように著作権に関して理解し、どのような契約をすべきなのかを見なおすきっかけになればと思います。
1.著作権の所在
著作物の創作によって生じた「著作者の権利」は、「著作者人格権」と「著作権」に分けられます。「著作者人格権」とは、著作者自身が著作物や著作者名の公表方法を決められる(公表権、氏名表示権)ほか、その創作物を他人に勝手に改変されない権利(同一性保持権)を指します。著作者人格権は、他人に譲渡などできず、必ず著作者に帰属します。
一方「著作権」とは、著作物を放映、展示、翻訳、二次使用などができる権利です。著作権の所在に関しては、下記のようになります。
動画の著作権は、基本的には創作された時点で動画制作者に原始的に帰属する
法人等の業務として制作した場合、以下の条件を満たすと著作権は法人等に帰属する(職務著作・法人著作 著作権法第15条)
(1)法人等の発意に基づいて
(2)法人等の業務に従事する者が
(3)職務上作成する場合で
(4)法人等が自己の著作の名義で
(5)公表するものであって(プログラムの著作物の場合は公表されなくてもよい)
(6)その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
発注者が企画、制作指示、資金提供を行ったとしても著作者とはならない
契約によって著作権の一部または全部を譲渡(買取)できる
著作物を「翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する」権利と、二次的著作物の利用に関して原著作権者がもつ権利は契約書に明記されていなければ移行しない
著作物の利用の範囲を定めて利用許諾するという契約も可能
動画の制作を制作会社に委託した場合は、制作会社が著作権を有することになることが多いです。委託した制作会社が、著作権を持たない法人となっていないかは確認しておきましょう。例えば、外部のプロデューサーに依頼した場合、その制作会社は著作権を持っていないこともあります。そのような企業と著作権に関する契約を締結しても意味を持ちません。
また、著作権は譲渡可能な権利のため、双方合意の上で、依頼主側に権利を移すこともできます。制作会社側が著作権を保有しながらも、依頼主側での一定範囲の利用を認める場合もあります。
委託先企業が著作権を管理したい理由とは
企業からすれば、「お金を払っているのだから、とりあえず権利を買い取っておき、所有したい」という気持ちになることはわかります。制作者の気持ちになって考えてみると、「努力して生み出した著作物だから、変に改変されたくない」「二次利用の場合は、利用目的に合わせて編集をし直したい」「複数のクリエイターが関わっていて、著作権の管理のプロである私たちに任せてほしい」など、さまざまな理由から著作権を動かしたくないということはあります。
また、著作物を作るには、継続的な技術習得や機材の購入やメンテナンスなど、事業会社側からはきっと想像もつかないほどの労力が発生しています。その労力に対するリスペクトは著作権であったりもするでしょう。
弊社は著作権の譲渡に対しては、積極的ではありません。クオリティ管理の側面と、クリエーターの成長と文化への貢献を微力ながら支えていきたいと思うことから、弊社側で著作権の管理をする方針を取りたいと考えています。
ブランディングに関わり、中長期的に売上に貢献するものであれば、譲渡はせずに著作権のマネジメントを行いたいと考えます。それが結果として、事業会社の皆様(発注元)にとってもプラスの効果をもたらすと思っています。
素材データについて
動画制作を委託している企業であれば、著作物の著作権の管理を行っています。
委託企業は下記に関して、理解をし、マネジメントをしていることを、発注元を把握しましょう。
動画に使われた元素材が著作物に該当する場合、それぞれに著作権が存在し、元素材の著作者はその利用をコントロールする権利がある(元素材の著作権者の意向に反する利用はできない)
納品される動画の著作権者以外に著作権者が存在するかどうか、存在するとすれば誰かという情報を正確に把握する必要がある
上記のような著作権のマネジメントを行なっている委託先に対して、著作権を譲渡して欲しいという場合は、自社で著作権をマネジメントできる場合に限るでしょう。そこは単に法律だけを守ればいいんでしょ?ということだけでなく、人間関係の結びつきもあることも多いので、正直難しいことだろうと思います。
納品後の修正に関する注意事項
委託先企業やクリエーターによって制作された映像を勝手に使用することは著作権法によって禁止されています。動画編集ソフトの普及によって、誰でも簡単に著作物を技術的には編集することが可能になりました。知らずにうっかり著作権を侵害してしまう可能性も。例えば、制作会社に制作してもらった映像を、勝手に修正してネット上に公開してしまうなど。
下記は、納品後の著作権に関しての注意ポイントになります。
・著作権の譲渡を受けたとしても、著作者人格権は移行しないので、著作者はその意に反して改変(変更や一部の切り取り)されない権利がある
・納品物を改変して利用することが想定される場合、改変可能な範囲についての合意を得る、制作会社もしくは制作者に改変を依頼する等の対応が求められる
契約時に考慮しておきたいこと
お金を払う=納品を受けた著作物を自由に使えるということではない
著作権の対象となる著作物を発注し納品を受ける場合、著作権の所在を管理するのは誰かを確認することが重要
契約書を交わす相手が著作権を保有していなければ著作権の譲渡を受けることはできない
(例)発注者と一次受注者の契約で著作権の譲渡を取り決めたが、多くのクリエーターが関わるので、実際の製作者から著作権を譲渡されていないケースは多くあります。著作権の管理自体を発注先が行なっているので、当然ではあるのですが、それを理解できない発注者も見受けられます。
著作物の利用や改変によって元々の著作者(製作者)とトラブルにならないような契約を心掛けることが望ましい
著作権と異なり著作者人格権は譲渡できないので、改変の必要が生じた場合は、状況によっては委託先ではなく著作者に改変を依頼するという契約の形も考えられる(このケースは極めて稀である)
著作権についての情報提供:佐藤翔(佐藤行政書士事務所)