企業が直面しやすいデータ分析の課題

企業が直面しやすいデータ分析の課題

社会のあらゆる部分でデジタル化が進んでおり、私たちの行動に伴う莫大なデジタルデータが生み出され続けています。ビジネス分野でもデータの活用が重要な課題と認識されるようになりましたが、実際に満足できるデータ活用を実現している企業は少ないと言われています。 この記事では特に、これからデータの活用を進めていこうとする企業が直面しやすいデータ分析の課題について解説します。

データ分析を始めようとする企業へ

ひとえに「企業」といっても、専門的なデジタル人材を多数確保している大企業から、デジタル化が進んでいない業種の中小企業まで、さまざまなタイプが存在します。

この記事では、これからデータ分析を始めようとする企業を対象とします。

具体的には、データ分析を事業上の活動として立ち上げるために求められる知識、スキルを持ったスタッフを確保できておらず、データの活用に関する検討を進めている段階としています。最近では高度な統計的分析が可能なツールも利用可能になってきていますが、利用法によっては誤った結論に誘い込まれるリスクもあります。それらのツールを使う人間は、使用するデータや分析法の意味や適用範囲を正しく理解する必要があります。

企業のデジタルデータ活用の現状

企業規模によるデジタルデータ活用の違い

総務省が公開している情報通信白書によると、なんらかの分野でデジタルデータを活用している割合は、大企業で約90%、中小企業で約56%となっています。特に中小企業において、データ活用の余地が大きいことが分かります。

企業規模とデータ活用のレベル

同じく情報通信白書では、データの使い道についても調査がなされています。

これによると、データの閲覧や簡単な集計といったレベルのデータ活用は、中小企業においても大企業と遜色ない程度で行われているようです。

一方で、やや進んだ統計的な解析(相関分析や分散分析など)を行っている割合は大企業で約60%、中小企業では約30%まで落ちています。さらに進んで、機械学習やディープラーニングなど人工知能を活用した予測を行っている割合は大企業で約18%、中小企業では約4%にとどまっています。

データの分析手法にみる企業規模レベルの差

データの入手経路

企業が分析に活用しているデータの入手経路にも顕著な傾向がみられます。7割を超える企業で社内データ(自社の業務活用によって生成、収集されたデータ)を活用しているのに対し、外部データ(他社からの購入、オープンデータ、共同研究やアライアンスによって入手したもの)を活用している割合はおおよそ30%以下となっています。

データの入手経路

外部で収集されたデータには、自社データとは異なる視点から新たな情報を提供してくれる可能性があります。例えば、これから新しい事業展開を見据えている場合などにこそデータに基づいた検討が有効ですが、その検討に使用するデータは既存事業で得られたもので十分でしょうか?データ分析で検討したい対象に適したデータを入手するためには、外部データの活用も含めた幅広い選択肢を検討することが重要です。

データ活用に向けた課題

上記の現状を踏まえると、企業のデータ活用には次のような問題が浮かび上がります。

  1. 簡単な集計を超えた統計的な解析やAIによる予測が進んでいない。

  2. 使用するデータが社内で収集していたデータに限られている。

これらの問題の克服にはどのような方策が考えられるでしょうか?

データ活用に向けた課題に対する方策

単なる集計にとどまらないデータ分析に取り組む

一般的な表計算ソフトや経理ソフトを使用すれば、日々の売上や支出、それらを集計した財務状況に関するデータを得ることは難しくありません。実際にほぼすべての企業で、これらのソフトによってデジタルデータが取り扱われています。

しかし、一般的な表計算ソフトや経理ソフトで行う定型作業のレベルを超えてデータを活用するためには、知識、スキルを持つ人材の確保が課題になります。ビジネスの分野で活用できるデータ分析には、統計学や数学的知識、プログラミングの技量も重要ですが、それらの知識、スキルをビジネス上の課題(経営、財務、マーケティング、生産管理など)とすり合わせることが重要です。単に理系の学部を卒業した人材であれば良いということでもなく、社内での育成にも長い時間とコストがかかります。

そのため、データ分析の導入を検討している段階や、これからデータ分析を始める企業にとっては業務委託などの手段による外部人材の利用が効果的です。その際には、技術的要素だけでなく自社のビジネス課題を理解できるパートナーを選定することが大切になります。技術的に優れたエンジニアであっても、事業の本質を捉えられずに、企業から見るとピントを外してしまう事例が多く知られています。

データ収集能力を強化する

データ分析の成果に大きな影響を与えるのは、分析の対象とするデータの質と量です。

データの質とは、「有効な要素が含まれているか」、「分析結果をかく乱するノイズが含まれていないか」といったイメージです。企業にとって役に立つ情報を引き出すためには、その情報につながる要素を含んだデータを集める必要があります。

また、基本的にデータはノイズを含んでいる(バラついている)ため、ある程度のデータ量を集めてバラつきの情報を取り除く必要があります。

すでに収集してあるデータ(売上や財務情報など、自社の業務活用によって生成されるものなどが代表例)をデータ分析に用いる場合には、保有しているデータからどのような情報を生み出せるのかを検討することが重要なステップになります。

データが収集された経緯によってはデータに歪みや偏りが含まれている可能性があり、データ分析結果の解釈を誤らせてしまう危険性もあるので注意が必要です。データの歪みや偏りの単純な例を挙げると、購入者の特性を調べるためのアンケートのデータが実際の購入者像を示していないケースがあります。原因として、購入者の中にアンケートを回答しやすい層(性別や年齢、顧客ロイヤリティなどによる)と回答しにくい層が存在することが考えられます。

また、データ分析を見据えたデータ収集を行えると、さらにデータ活用の幅が広がります。具体的には、ビジネス上の検討材料として○○の情報が欲しい、このような判断にAIを利用したいといったビジョンを定め、そのためにどのようなデータが必要であるかを考え、実際にデータ収集の仕組みを構築するような取り組みが該当します。

例:景気循環における値引きキャンペーン効果の情報が欲しい

景気循環における値引きキャンペーン効果の情報が欲しいという場合は、景気の指数と値引きキャペーンにおける売上成長率のデータが必要になり、景気の指数が異なる複数のデータは必要になります。

景気による値下げキャンペーン効果

データ収集の手段としては、自社システムの改修やWeb上のデータを探索する、またはWebやアプリを介して情報を収集する方法が想定され、ある程度プログラミングなどの専門知識が必要になることもあります。

まずはデータ分析の可能性を知ることが重要

ここまでは、データ分析を始める段階で企業が直面しやすい具体的な課題について解説しました。

それらの課題に比べると抽象的ですが、そもそもデータ分析やAIによって何ができるのか、どのようなメリットを追求できるのかを理解することも重要です。

近年では「AI」という言葉がニュースになることも多く、あらゆる問題を解決できる魔法のようなイメージを持ってしまいがちです。実際にはAIやデータ分析でできることは限られていて、その範囲で得られる情報で課題を解決可能か(できるとすればどのような手段で実現できるか)を判断しなくてはなりません。

適切に課題と解決手段を設定できれば、データ分析やAIは人間の判断力をさらに高める働きを発揮します。

例えば、人間を凌駕する能力を獲得した将棋や囲碁のAIは、数百年の研究を経て形成された人間の感覚や定石を急速にアップグレードさせています。まだAIがとても弱かった時代から将棋界のトップを走り続けてきた羽生善治九段は、「今後の将棋界では、いかにAIから棋士が学習するか、AIに自分の才能や能力を引き出させるかが重要になっていくでしょう。」と語っています。

今後の将棋界では、いかにAIから棋士が学習するか、AIに自分の才能や能力を引き出させるかが重要になっていくでしょう。その方法はまだ誰も確立していないので、5〜10年かけて見つけていくことになるのですが、おそらく若い世代の人たちのほうが見つけやすいでしょうね。将棋ソフトだけで対局を積み重ねているような子供たちも増えていますし、AIがあるのが当たり前という世代こそが、将棋のさらなる進化を担っていくことになると思います。

羽生善治九段が語る「AIで進化する将棋界」 ディープラーニングで「棋譜記録」が変わる|リコー

人間を凌駕する能力を獲得した将棋や囲碁のAI

ビジネスにおいて多くの知識、経験を蓄積してきたと自負する方も、新たな思考法や判断基準を獲得する方法の一環としてデータ分析やAIを活用してみてはどうでしょうか。

データ分析の課題を乗り越えた先

近年、デジタルデータを活用する技術的基盤が整備されてきましたが、企業が実際にデータを活用するためには人材の問題や、分析に適したデータの収集の問題が大きな課題となっています。また、データがもたらすメリットやその活用の限界を理解し、事業に取り込んでいくビジョン形成をゼロから進めることも容易ではありません。

これからデータ分析やAIをビジネスに活用したいと考えている方は、まずは外部の専門家と連携して上記課題の克服することが有効です。データ分析やAIは万能の魔法ではありませんが、上手く利用すれば人間の判断力を大きく飛躍させる強力な手段になります。データがビジネス上の重要な決断を支え、事業のさらなる成長を促します。

弊社では、データ活用に関するクライアントの状況に応じたサポートを提供しています。現在お困りの場合、またはこれから始めたいけどどうしたら良いか悩んでいるケースでもまずはお気軽にお問合せください。

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