2023年のマーケティング予算の動向。原点回帰?注目をされているマーケティング投資とは?
広告市場全体は、2023年に減速すると予想されています。デジタル広告市場はより広範な広告市場よりも好調に推移すると予想される見方が多いですが、主要な調査をもとにマーケティングおよび広告に関する動向を考察してみました。
企業のマーケティング支出を調査から読み取る
今回は、World Federation of Advertisers (WFA:世界広告宣伝業連合)、Gartner、The CMO Surveyの3つの調査を取り上げました。
World Federation of Advertisers (WFA:世界広告宣伝業連合)
Gartner
The CMO Survey
それぞれの調査を分析した動向からも一致した課題が見受けられました。今後のマーケティング、今までの加熱したデジタルマーケティングとテクノロジーソリューションの導入について考察しました。
1.World Federation of Advertisers :30%が予算削減、30%が予算増加、40%は維持
World Federation of Advertisers (WFA:世界広告宣伝業連合)の調査は、43 社の多国籍企業を対象に、マーケティングおよび広告の予算の方向性を分析しました。
調査対象には、支出額で世界トップ 10 の広告主のうち 5 社が含まれ、2022年10月に調査結果はプレスリリースで発表されました。
マーケティング支出を減らす30%、維持する40%、増やす30%
調査対象者の29%が2023年の支出を減らす計画を立てており、10人中4人は予算を2022年の水準を維持すると回答しています。
また回答者の4分の3は、2023年のマーケティング予算が厳しい精査を受けており、マーケティング担当者は投資を正当化する必要があることに「強く同意」または「同意」しています。
短期的なマーケティングの傾向
資金の配分方法の重点が変わり、短期的なパフォーマンスマーケティングに重点が置かれました。21%がブランド構築への支出を増加させるのに対して、28%はパフォーマンス向上を目指すと回答しています。
さらに、42%がデジタルへの支出を増やすと回答しており、テレビ、ラジオ、印刷物、屋外などのオフラインメディアは影響を受ける可能性があります。
調査への考察
WFA CEO ステファン・ロルケ氏
「これらの WFA と Ebiquity の調査結果は、予算が圧迫されており、ブランド構築を犠牲にして短期的なパフォーマンスチャネルに縮小する兆候があることを示しています。しかし、多くの顧客が毅然とした態度を取り、過去の不況から得た教訓に留意する計画を立てているのを見るのは心強いことだ。投資を続けたり広告費を増やしたりした企業は不景気の時期から強くなることを何度も示している。経済的には不確実性がある」
EbiquityグループCEO ニック・ウォーターズ氏
「ブランドは2023年に投資価値を最適化するために、より少ないリソースでより多くの成果を達成することが求められているため、まず支出を見直し、非効率で無駄な支出を削減することが理にかなっている」
FLOURISH
短期的な運用でもあるパフォーマンスマーケティングに予算を割くような傾向は、多くの調査でも見受けられます。その一方で、パフォーマンスマーケティングへの懐疑的な意見もチラホラ挙がってきています。一般消費者の生活からすると、モバイルやデジタルへの過大評価されているのではないかと感じることもあります。そして、そこまで人々はSNSを好んでいるのだろうかと思うこともあります、SNSを見ると自己肯定感が下がり、見ない方が幸せであるという調査まであります。
企業のサービスやプロダクトによりますが、生活様式の変化には気を配りながら、ブランド構築とパフォーマンスマーケティングの適切な評価を検討し、中長期的な戦略とパフォーマンスマーケティングを関連づけることが必要だと考えます。
2.Gartner :テクノロジーソリューションの活用に課題
ガートナー社が毎年行っている「マーケティング予算と戦略調査 (The State of Marketing Budget and Strategy)」は、北米、北ヨーロッパおよび西ヨーロッパのCMOまたはマーケティングリーダー対象に実施されています。調査数はおよそ400~600名程度です。
2022年はマーケティン予算が回復、2023年は横ばい予測
「 CMO 支出と戦略調査2022(The State of Marketing Budget and Strategy 2022)」では、収益におけるマーケティング予算の割合は回復したことが報告されました。収益におけるマーケティング予算は、2021年の記録的な低水準の6.4%から回復し、2022年5月に発表された調査では9.5% まで増加したことがわかりました。
2023年5月に発表された調査結果では、マーケティング予算は総収益の9.1%、比較的横ばいではあるものの、2022 年に報告された 9.5% からは若干低下していることが明らかになりました。
テクノロジーの利活用には問題あり
2022年調査では、マーテックスタック全体のうちで利用しているのはわずか 42% であり、2020 年の 58% から減少していました。持ち駒として抱えているソリューションに関して、とても無駄が多いような状態と言えるでしょう。
この2022年の結果は、過去2年間でマーケティングテクノロジーの利用が16 ポイント減少したことになります。減少した理由は、ソリューション間の重複部分がかなり大きかったこと、利用を促進する人材の特定と採用の難しさ、エコシステムの複雑さや無秩序さなどが挙げられています。
マーケティングテクノロジーの利用が減少した理由
ソリューションの機能の重複
利用を促進する人材の特定と採用の難しさ
エコシステムの複雑さや無秩序さ
選定のフェーズでの問題、人的なリソースの問題は解消できることではあります。
しかし、事業会社側の担当者のナレッジの問題で、人とサービスに対して目利きができないとすると根深い問題と考えられます。
懲りずにマーケティングテクノロジーには投資する意欲あり
2022年調査では、マーケティング予算全体の4分の1をマーケティングテクノロジーに割り当てると報告していますが、同時にマーケティング担当者の 75% は、ROI を向上させるために今年はマーテック支出を削減するというプレッシャーにさらされていることが明らかになりました。無駄なマーケティングソリューションをそのままにして、さらにテクノロジーを抱えるのではあれば、ROIのプレッシャーはどんどん強くなるでしょう。
2023年調査でも、CMOが報告した主要なマーケティングリソース配分でも、他の項目への配分が減る中で、Marketing Technology(テクノロジー)は減っていません。引き続き、Marketing Technology(テクノロジー)への投資意欲が強い傾向があります。
マーケティングリソース配分
検索広告を削減し、ソーシャル広告支出を増加
今年投資が増加するトップのデジタルチャネルはソーシャル広告。デジタルビデオ広告とインフルエンサーマーケティングがそれに続きます。検索広告への投資は、2023 年に減少すると最も多くの回答者が回答しました。
調査への考察
ガートナー マーケティング部門 調査責任者兼副社長アナリストのユアン・マッキンタイア氏
「予算の抑制、コストの増加、生産性の低下が CMO の購買力を圧迫しています。CMOは標準的な優先順位を超えて、成長、利回り、収益を最優先に考えなければならない。CMO はシナリオ計画を倍加し、短期的な効率的な実行と、将来に向けた能力の構築を可能にする投資のバランスを取る必要があります。」
FLOURISH
マーケティング予算と戦略調査2022(The State of Marketing Budget and Strategy)」の2022年の結果を見る限り、テクノロジーの利活用が上手くは行っていない傾向が伺えます。
コロナ禍ではデジタルシフトを迫られ、企業はデジタルテクノロジーに大きく費用を費やしました。しかし、有効活用しきれているかというと難しいのが現状ではないでしょうか。ソリューションを利活用するには、選定時に機能を理解し、ソリューション同士を組み合わせて効率的に使えるかを検討する必要があります。
個人的には、マーケティング担当者が高度なプログラミング技術を持っていると最高だと思いますが、そういった担当者は1%も存在しないのが現実です。外部のマーケティングとテクノロジーを融合できる力のある企業に頼むことが最善の選択肢になるでしょう。
このマーケティングソリューション支出が無駄になっている状態は、最終的には人的なリソース削減に結びつく可能性も考えられます。
非効率な状態の解消、無駄な支出の削減に関して、1対1で交換できるものではないでしょう。さらに、テクノロジーを入れることで無駄な人的リソースの削減を結びつけてることは、あまりに短絡的にすぎる発想。
2023年に関しては、ガートナーの調査結果からは、予算据え置きの傾向が見て取れます。利活用の進まないソリューションを維持することは将来的には根本的な何かしらの重要なリソースの圧縮につながってしまう可能性もあるので、2023年のうちに利活用を進めることと、ソリューションの精査を行う必要があるでしょう。
3.The CMO Survey : モバイルマーケティングの収益への貢献度は確認してないが予算配分する?
2023年3月に公開された第 30 回 「The CMO Survey」は、米国企業のマーケティング リーダー 314 名を対象にし、97%が副社長クラス以上です。
この調査の結果では、経営幹部が人員削減やコスト削減を行う中、インフレと経済の不確実性がマーケティング支出に悪影響を及ぼしていることを示しました。
マーケティング支出は鈍化
2022 年 9 月の調査では、半数以上のマーケティング担当者が前年比 10.4% のマーケティング支出の増加を報告しましたが、2023年3月の調査では過去12か月間で平均2.9%の成長しか報告されていません。
デジタルマーケティング支出も前年と比べて成長率は鈍化しています。支出が削減された結果、マーケティング組織の規模の成長は前年比 3.4% 増加に鈍化し、雇用も同様に、来年は前年比3.9%増に鈍化する予定。1年前に予想された前年比10.5%増から下方修正されることになります。
CMR支出 vs ブランド支出
2022年調査では、ブランドとCRMの支出を比べると、ブランドへの支出を増やしている傾向があります。
しかし、2023年の調査では、支出削減のため、ブランド構築への投資は、昨年比5.5%増に減少した。これと一致して、マーケティング担当者は、ブランドを使用してビジネスを成長させるためのブランド管理と開発能力の有効性を評価する質問では、まだ伸びしろがあるように感じているように見受けられます。
ブランド支出 vs パフォーマンス支出
短期的なプレッシャーを示す別の指標として、マーケティング担当者は、自社のブランド予算の平均 40%を長期的なブランド構築に、60%を短期的なパフォーマンスに費やしているが、それぞれに50%を費やすのが理想的であると報告しています。
さらにモバイル活動に対するマーケティング支出は、今後 12 か月以内に 2020 年のピークレベルに匹敵し、5 年間で 80% 増加すると予測されています。現在は19%にとどまっており、1年前の予測と一致している。数字が増加しているにもかかわらず、マーケティング担当者はモバイル マーケティングが自社の業績に大きく貢献しているとは認識していません。
調査への考察
The CMO Survey 創設者 取締役 クリスティーン氏
「過去 3 年間でマーケティングの役割は拡大しました。ブランド、広告、デジタル マーケティングがこの部門の上位 3 つの責任ですが、マーケティング部門は、マーケティング分析、収益成長、イノベーション、市場参入戦略などの主要な戦略分野でも責任を深めています。したがって、デジタル/ウェブ/モバイルのパフォーマンス/コンテンツエンゲージメントという戦術的指標への依存度が高く、ブランド資産価値や顧客生涯価値などの主要な戦略的指標への依存度が低いことは驚くべきことです。
この調査結果は、マーケターが時間の 70% を現在の管理に費やし、将来への準備に費やすのは 30% のみであると報告しているという事実と一致しています。」
FLOURISH
マーケティングの役割がパフォーマンスマーケティングに傾向していることは、徐々にデジタル化が進むのと同時に始まっていたように思います。ミクロな視点でミクロな打ち合わせで時間を使うことも増えているのでしょうはないでしょうか。
今後のマーケターの選択肢は?
調査結果から、今後のマーケティングのポイントが挙げられます。
テクノロジーの利活用とプラットフォームの棚卸と取捨選択
パフォーマンスマーケティングの評価とブランド構築の評価
パフォーマンスマーケティングとブランド構築のバランス
人の行動様式の変化とニーズの把握
デジタルマーケティングは、マーケティング領域のプロモーションの一つの戦術(打ち手)ですが、昨今では「マーケティングとはデジタルマーケティングである」と間違えた認識している方にも多く出会います。
調査の結果では、マーケティングの中核となる価値提案、ブランドマーケティング、認知度や満足度に対するキャンペーンへの回帰を示してもいます、それは良い兆候に思います。
何かしらのオンラインへの投資は必要
そして、思っている以上に、マーケターの選択肢はそれほど多くは存在していません。厳しい予算と厳しい予算への精査の中で、デジタルプラットフォームへの移行の増加により、マーケターは何らかの方法でオンラインにお金を費やす必要はあるでしょう。
マーケティングは、常に変化し続けます。ライフスタイルに向けて動き続ける中、企業は戦略を調整し、消費者の変化するニーズに合わせてマーケティングを行うために広告費の優先順位を再設定していくことが重要です。
注目をされているマーケティング投資
さまざまな調査結果から、マーケティング予算に関して増加傾向があり、注目されている投資は下記になります。
コネクテッド TV (CTV)
インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスは、「Over The Top」の略でOTTと言われています。NetflixやHuluなどのサービスは動画OTTサービス。多くの場合このOTTで使用されるデバイスがコネクテッドTV(CTV)と呼ばれます。
CTVは、Netflix や Disney+ などのストリーミングサービスに表示される広告への出稿が増えている傾向があります。明るい話として、CTV 市場は 2023 年に 14.4% 成長すると予想されており、広告市場全体よりも速く成長すると予想されています。
消費者のプライバシーへの対応
消費者のプライバシーに対する需要の高まりに応え、サードパーティクッキー(3rd Party Cookie) のサポートが段階的に廃止されたことを受けて、サードパーティ データの使用方法が変わりつつあります。サードパーティデータの使用が継続的または減少すると予測されます。自社の Web サイトやアプリ以外の消費者に対する理解を高めることにも取り組んでいます。
AI と機械学習
サードパーティクッキー(3rd Party Cookie) の規制により自社のファーストパーティ データの重要性は増しています。ファーストパーティデータの効率的に活用することで、マーケティングを最適化できます。
人工知能 (AI) または機械学習 (ML) の活用は、より関連性の高いエクスペリエンスの提供を可能にします。
リテールメディアネットワーク
ライブコマースのような新しい選択肢も魅力的ですが、コマースメディアの世界で見られる成長の大部分がリテールメディアネットワーク(RMN)です。プライバシーが保護されたファーストパーティーデータの利用が急増したことで、小売業者による自社のリテールメディアネットワーク(RMN)の構築を後押しすることとなり、メディアの覇者としてリテールメディアは大きな注目を集めるようになりました。
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