「健康食品」広告の薬事ライティングの注意点とは?~「薬機法」編
健康食品の広告作成では、「この表現は可能?」「この用語は使っても大丈夫?」といった点に気を取られがちです。しかし、表現・用語だけに注意を払って薬事ライティングを行うと、必ずと言ってよいほど失敗します。適切な薬事ライティングのためには、関連法規の目的、取り締まりの考え方を理解した上で、違反事例を研究することが大切です。主な関連法規に医薬品医療機器等法(薬機法)、景品表示法、健康増進法がありますが、今回は薬機法について解説します。
薬機法による広告規制…その目的とは?
薬機法は厚生労働省が所管しています。同法は保健衛生の向上を目的に、健康食品などの広告を規制しています。国が承認した医薬品以外で、疾病に対する効果などをうたうことを禁じています。
これは、疾病への予防・治療効果があるかのような表示を行うと、それを信じた一般消費者が医療を受ける機会を失い、病状を悪化させてしまうからです。加えて、医薬品と食品の概念が崩壊し、医薬品に対する不信感が生じてしまいます。
薬事ライティングは、そうした法の目的に照らして行うことが基本となります。
薬機法は「何人も」規制…広告代理店やライターも対象
薬機法による健康食品の広告規制は、主に法の第68条「承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止」に基づきます。
第68条では、「何人も…(略)…認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と規定しています。
(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)
第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
重要なのは、「何人も」とされていること。広告主の販売会社だけでなく、マスコミ、広告代理店、原料メーカー、ライターなども規制を受けます。この点は、景品表示法と大きく異なります。
効能効果をうたう健康食品は「無承認の医薬品」
薬機法では、医薬品のような効能効果をうたう健康食品を「無承認の医薬品」とみなし、承認前の医薬品の広告を禁止する第68条に違反すると判断します。
例えば、健康食品の広告で「風邪を予防する」と宣伝し、それが事実であり、十分な根拠があったとしても、薬機法では「無承認の医薬品」とみなされ、法違反となります。
薬機法に基づく取り締まりのプロセス
薬機法に基づく取り締まりは、下記の2段階に分けて判断していきます。
第1段階で、「広告の3要件」を満たすかどうかを判断。
第2段階では、広告内容に「医薬品的な要素」があるかどうかを判断。
両方を満たすと、薬機法の規制対象。
第1段階「広告の3要件」とは?
ここで注意しなければならないのが、「広告の3要件」の捉え方。
健康食品業界では、勝手な解釈によって「広告の3要件」を曲解し、違法な広告を展開するケースが少なくありません。「広告の3要件」を正しく理解することが、適切な薬事ライティングにつながります。
「広告の3要件」とは次の3点であり、全てを満たした場合に薬機法の規制対象の「広告」と判断されます。
顧客を誘引する意図が明確
商品名が明らかにされている
一般人が認知できる状態である
1点目の要件の「顧客」とは、一般消費者に限らず、すべての取引先を含みます。
2点目の要件の「商品名」については、販売する物(商品)だけでなく、使用する原材料も含み、原材料名も商品名に該当するケースがあります。
3点目の要件の「一般人」とは、世の中のすべての人を意味します。
このように「広告の3要件」については、広く捉える必要があります。これを満たさないケースは、学術会議で発表される論文やマスコミ報道などに限られます。
第2段階では、配合成分にも注意を!
薬機法に基づく取り締まりの第2段階では、広告内容に「医薬品的な要素」があるかどうかを判断しますが、「医薬品的な要素」とは何でしょうか?
最初に、商品に使用する原材料が、食品に使用できるものかどうかが問われます。医薬品にしか使用できない原材料を配合している場合は、食品ではなく医薬品と判断されます。
原材料のチェックには、食薬区分制度の「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」を用いるとよいでしょう。このリストに掲載されている原材料は、健康食品に使用できません。薬事ライティングを行う場合は、食薬区分制度を十分に理解することも必須となります。
第2段階では「医薬品的な効能効果」はNG
使用する原材料に問題がない場合であっても、以下の3点のうち、どれか1つでも該当すると「無承認の医薬品」と判断されます。
医薬品的な効能効果を標ぼう
アンプル形状など専ら医薬品的な形状
用法用量が医薬品的
医薬品的な効能効果を標ぼう
1点目の「医薬品的な効能効果を標ぼう」とは、どのようなものでしょうか?
薬機法では、容器・包装、添付文書、チラシ、パンフレット、刊行物、インターネットなどの広告、演述(口頭)によって、「医薬品的な効能効果」をうたうことを禁じています。はっきりと表示していなくても、暗示している場合も同様です。
「医薬品的な効能効果」の事例として、次のようなものがあります。
疾病の予防・治療に関する表現
まず、「血圧が下がる」「糖尿病が治る」「動脈硬化を防ぐ」「近視が改善する」といった疾病の予防・治療に関する表現は、もっとも分かりやすいと言えます。
身体の組織機能の増強・増進を目的とする効能効果に関する表現
疾病名でなくても、「疲労回復」「強壮」「体力増強」「食欲増進」「老化防止」「アンチエイジング」「学力を高める」など、身体の組織機能の増強・増進を目的とする効能効果も規制の対象です。ただし、「栄養補給」「健康維持」といった程度の表現については、基本的に問題となりません。
間接的・暗示的な表現もNG
さらに、間接的・暗示的な表現もNGです。例えば、「延命〇〇」「〇〇の精」「不老長寿」「漢方秘法」などが挙げられます。健康食品の広告でよく見かけるのですが、「血圧を下げる作用が知られている〇〇を原材料に使用」といった間接的な説明も、薬機法の規制を受けます。
新聞・雑誌・書籍の記事や、医師・学者の談話などの引用も規制の対象
このほか、「○○という自然科学書に、消化を助けるとあります」や「医学博士△△の談『昔からご飯に〇〇をかけて食べるとガンにかからないと言われています』」など、新聞・雑誌・書籍の記事や、医師・学者の談話などの引用も規制の対象です。
アンプルや舌下錠などの形状はNG
次に、2点目の「アンプル形状など専ら医薬品的な形状」について見ていきます。
薬機法では、「食品」である旨が明示されている場合、原則として形状のみによって医薬品に該当するかどうかを判断しません。このため、カプセルや錠剤であっても、それだけでは問題になりません。
ただし、アンプル形状、舌下錠、液体を噴射するスプレー管などの食品については、一般消費者に医薬品であると誤認させることから、医薬品と判断されます。
「食前・食後」「お休み前に」といった表現はNG
3点目の「用法用量が医薬品的」については、薬事ライティングの際に細心の注意が必要です。
服用時期、服用間隔、服用量を健康食品の広告で記載した場合は、原則として「医薬品的な用法用量」とみなされます。例を挙げると、「1日2~3回」「食前・食後」「お休み前に1~2粒」などがあります。健康食品で表示できるのは、基本的に「1日あたり摂取目安量」となります。
一方、食品であっても過剰摂取や連用による健康被害の恐れがあるなど、むしろ摂取の時期・間隔・量の目安を表示すべきケースも考えられます。このため、ビタミン・ミネラルを対象とする栄養機能食品については、時期・間隔・量などの摂取方法を表示しても、「医薬品的な用法用量」には該当しないとされています。ただし、この場合も「食前」「食後」「食間」といった表示はNGです。
後を絶たない「明らか食品」をめぐる誤解
厚労省は通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる「46通知」)で、一般消費者が医薬品と間違うことがないと考えられる食品として、次の3つを定めています。
野菜・果物・調理品など外観や形状から明らかに食品と分かる物
特別用途食品(トクホを含む)
機能性表示食品
これらについては、ある程度の効能効果をうたったとしても、直ちに薬機法の規制を受けることはないと考えられています。トクホは許可文言、機能性表示食品は届出表示の範囲内ならば、効能効果をうたうことが可能です。
一方、業界関係者の間で誤解が多いのが、「明らか食品」について。通知で規定されていることから、「何を表示しても問題ない」という誤解です。
しかし、野菜・果物といった「明らか食品」であっても、「糖尿病を改善」「血圧が下がる」「花粉症が治る」などと表示すると、「無承認の医薬品」とみなされます。何をうたっても大丈夫ということはあり得ませんので、薬事ライティングではこの点にも注意する必要があります。
健康食品の広告で薬機法に違反するとどうなる?
健康食品の広告で薬機法に違反すると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。
このほか、2021年8月1日から「措置命令」と「課徴金制度」が加わりました(課徴金については、法第68条は適用外)。
措置命令が出ると、違反者には次のような対応が命じられます。
違反広告の中止
違反したことを医療関係者や消費者へ周知
再発防止策を講じる
違反行為を繰り返さない
行政処分であっても、刑事事件であっても、企業名や商品名などが広く報道され、事業者の社会的な信頼が大きく低下します。このため、薬事ライティングには細心の注意を払う必要があります。
薬事ライティングのポイント、「疾病」と「部位」が最重要
薬事ライティングで薬事法の観点から注意すべき点として、真っ先に挙げられるのが、疾病の予防・治療効果をうたわないこと。間接的・暗示的な表現も含め、疾病に対する効能効果をうたって、逮捕・起訴となるケースは珍しくありません。
次に、身体の部位の表示も避けなければなりません。脳や腸、肝臓、目、骨、血管など身体の部位を表示し、それに対する影響を明示・暗示することも薬機法違反に問われます。また、言葉だけでなく、写真やイラスト、グラフなども判断材料となります。
つまり、健康食品の広告で、医薬品の世界に一歩でも足を踏み込むと、薬機法による取り締まりが待ち受けているわけです。薬機法の目的を踏まえると、特に「疾病」「部位」は、薬事ライティングで最も注意すべきポイントとなります。
脱法行為は失敗への近道
近年、薬機法の規制を逃れようと、さまざまな悪質な広告手法が登場しています。
例えば、「驚異の〇〇(成分名)!ガンが消えた」と題した書籍を発刊したり、健康雑誌で「糖尿病に効く〇〇(成分)」を特集したりしつつ、当該成分を配合した健康食品の宣伝に利用する手法もその1つ。これは、薬機法の「広告の3要件」の盲点を突いた(つもりの)手法ですが、薬機法違反に問われた事件が発生しています。
このほか、折り込みチラシで特定成分の効能効果を説明し、別の折り込みチラシで同成分を配合した商品を宣伝するという手法も見られますが、この場合も、基本的に薬機法の規制から逃れることはできません。
薬機法の理解が進むと、抜け道を探ろうとする事業者も出てきます。しかし、そうした脱法行為は、取り返しのつかない事態を招きがちです。脱法行為は失敗への近道であると理解しましょう。
用語・表現だけにこだわるのは危険
薬事ライティングの際に、「この用語(表現)は使用可能か?」という点にばかり気を取られることも危険です。
違法かどうかは、一部の用語や表現だけを見て判断されるわけではありません。広告全体を通して吟味されるため、用語や表現だけにこだわるのは不十分と言えます。
また、用語・表現について、「他社のサイトでも使用しているから大丈夫」という考え方を持つとリスクが増大します。というのも、これまでの取り締まりで、“たまたま”後回しにされたり、見落とされてきたりしただけの可能性があるためです。
今回見てきたように、薬事ライティングを行う場合には、法の目的や取り締まりの考え方に基づいて、広告を総合的に判断しなければなりません。近視眼的な小手先のチェックは危険だということを肝に銘じ、適切なライティングを目指しましょう。