リブランディング失敗事例から考えるブランディングの成功

リブランディング失敗事例から考えるブランディングの成功

最近、ブランディングやブランドにおける成功は何ですか?と質問をいただき、パッと思いついた答えが果たして最適な回答なのか悩みました。2〜3日くらい熟考しました。

多くの人がイメージするブランディングは、ロゴやパッケージなどのデザイン要素を活用したデザイン要素(エレメンツ)の制作を思い浮かべるのではないでしょうか。 まず、「ブランディング」が何を指しているかを整理する必要がありました。

私見にはなってしまいますが、マーケティング活動でのブランディングと、ブランド戦略やデザイン要素に関するブランディングに大きくは分類できると思います。

  • マーケティング活動でのブランディングは、レギュレーションを守り、統一した浸透を目指します。またブランド戦略が達成できるようにマーケティング活動を行います。

  • ブランド戦略やデザイン要素に関するブランディングは、企業がどう思われたいかを考え、戦略に基づいて、エレメンツを作成します。

後者のブランド戦略やデザイン要素に関するブランディングにおいて、成功が何であって、何が成功の鍵になるかを熟考した結果、失敗事例に学ぶことが多いのではないかとたどり着きました。

トロピカーナ・パッケージのデザイン改訂

失敗例から考える方がわかりやすいのではないかと閃き、「MINIMALIST PACKAGING(ミニマル・パッケージ・デザイン)」という本にトロピカーナ・パッケージのデザイン改訂が失敗事例として書かれていたことを思い出しました。とっても衝撃的な失敗で、ブランド戦略やマーケティングに関わる人の教訓と言ってもいいくらいに感じます。

トロピカーナは1947年に設立されたフルーツジュースの飲料メーカーです。2009年に当時の親会社のペプシコが、北米市場でベストセラーとなっていたオレンジジュースの既存パッケージデザインの改訂を決定しました。伝統的なオレンジ色とストローのパッケージを近代化しようとする取り組みが行われました。このシンプルなパッケージ デザインは、ミニマルデザインに含まれるでしょう。

リブランディングの失敗事例

デザイン変更で起きたこと

新しいパッケージにして数日後に消費者から、ソーシャルメディアでの批判が殺到しました。 市場に出てわずか2か月後、ジュースの販売数が減少したことを知り、新しいロゴが使用された製品パッケージをすぐに廃棄しました。あっという間に20パーセント、3000万ドル(約35億円)を失いました。

"About five years ago [Tropicana] went to this very clean but kind of cold-looking logo, and their sales dropped 20% in one month. Some pundits said they weren't recognizable," Ryan said. "Tropicana has something like eight feet in the refrigerated section. People recognized it. They didn't trust [the new logo]."

This Logo Change Caused Tropicana Sales To Plunge|Business Insider

一部の専門家は、「認識できない」と言うほどでした。

なぜ、起きたのか?

そして、トロピカーナはマーケティング調査の失敗だったと説明し、パッケージに戻すと発表。この新しいロゴに関して、合計で5000万ドル(約55億円)以上の費用がかかりました。

新しいトロピカーナのパッケージ デザインを担当したエージェンシーArnel Groupのピーター アーネルは、発売時に次のように述べています。

If that was the design objective, the increased prominence of “100% orange” makes some sense. But why select an overall design that feels so “generic,” especially for a brand with such a heritage of “premium”? And why, especially, would you walk away from the “straw in the orange”? This was a smart symbol of the purity of the juice inside, and that rarest of things, an ownable element of the visual identity. Worse yet, why replace it with a standard-issue, undifferentiated glass of orange juice? I can’t comment intelligently on whether “pure, natural and squeezed from fresh oranges” is the right message for Tropicana. It’s clear, however, that their design strategy in conveying that message was wildly off the mark. That’s not a research issue – that’s a strategy issue.

Tropicana Package Design: Out with the Old, In with the New, Out with the New… |MATTHEW FENTON

「100% オレンジ」の存在感を増すことが目的の場合は、ある程度は理にかなっていると言っている一方で、調査の問題ではなく、戦略の問題と話しています。

伝統のあるブランドが、「一般的」なデザインを選択するのか、象徴的な「ストロー」を取り除こうとするのかは疑問があったことがコメントからは伺えます。ストローは、ジュースのシンボルであり、視覚的アイデンティティの所有可能な要素でした、加えて標準的グラスのオレンジジュースに置き換える必要もなかったのではないかと言っています。

このリブランディングの事例からは、近代化したいという方針自体を見直す必要があったのかもしれません。近代化=ミニマルデザインであったかはわからないですが…。

ウィダーインゼリーの再リニューアル

2014年、ゼリー飲料のトップブランド 『ウイダーinゼリー』が発売 20周年を迎えたのを機に、アートディレクターの佐藤可士和氏がプロジェクトに参画し、発売以来初めての大幅リニューアルを行いました。

ウィダーインゼリーのリニューアルのロゴ

デザインのポイントは下記だったようです。

  • フレーバーを大きく表記し、カラーバーで表現することで、 おいしさを訴求

  • ウイダーin ゼリーの象徴である「in」をアイコンとして デザイン

  • カロリーで選べるように。 商品ごとに目立つように文字も大きく色も変えて、識別性を 高めた。

  • タイポグラフィーにより構成された 「ウイダーin ゼリー」独自のデザインをより現代的に

売り上げ激減で、リニューアルから4ヶ月後で再リニューアル。その時のデザインは下記になります。

ウィダーインゼリー再リニューアル

なぜ、起きたのか?

森永製菓は「リニューアルのコンセプトを浸透することができなかった」と説明しています。

リニューアルラインナップ

大苦戦をした「カロリーハーフ」は、従来の「マルチビタミン」の品質を変えずに、名称とデザインを変えたものでした。「カロリーハーフ」は4カ月後には、姿を消し、再び機能性重視した名称「マルチビタミン」に。

カロリーで購入する人が大多数ではなくて、消費者ニーズは機能性だったということでしょうか。この例では、消費者ニーズを理解したマーケティング戦略が重要ということに気づかされます。

Sierra Mist

レモンライム風味の清涼飲料のSierra Mistもトロピカーナと同じペプシコのブランドです。さらに、霧がかかったパッケージデザインも、トロピカーナと同じニューヨークのエージェンシーArnel Groupによって設計されました。

1年半も経たないうちに、AFTERの新しいデザインが登場します。(こちらの例はBEFOREが酷評されていました。)

Mist

なぜ、起きたのか?

デザインからは、レモンライム風味の清涼飲料かも少し分かりづらく、モヤっとします。本当に霧がかかったような感じがしてしまいます。

しかし、テーマが「森の霧」でした。色としてレモンとライムは表現されているようです。 テーマとしては間違えてないデザインのように感じます。

この事例では、コンセプトは大事だと気づかされます。

Gap(ギャップ)

2010年10月、Gapは突如として新しいロゴを発表しました。 消費者からは全く受け入れられず、SNSで批判が多く寄せられ、新しいロゴは廃止され、従来のロゴに1週間で戻しました。ニューヨークを拠点とするクリエイティブ エージェンシーの Laird and Partners によってデザインされました。

But the company saw more than 2,000 comments on its Facebook page on the issue, with many people railing against the new logo and calling for a return to the old. Gap scraps new logo after online outcry|Reuters

Facebook ページには、この問題に関する 2,000 件を超えるコメントが寄せられ、多くの人が新しいロゴに反対し、古いロゴへの回帰を求めていたそうです。

GAPロゴ

なぜ、起きたのか?

Gapの広報担当者は、新しいロゴは、Gap が「クラシック、アメリカン デザイン」から「モダン、セクシー、クール」への移行を示すことを意図したものと発表しました。

ロゴの廃止発表では、広報担当者は、「ブランドにはどれだけのエネルギーがあるかを学びました。よく考えた結果、象徴的な青いボックス ロゴに戻すことにしました」と語りました。

Facebook と Twitterがある意味、助けてくれた一例でしょう。トロピカーナの大失敗をかろうじて回避していたと言われています。

Gapは、2008年の金融危機の余波で売り上げの減少に直面。Gapの株価は40%以上下落。そこから、会社を元の状態に戻しましたが、2010 年に再び変化し、Gap は売り上げが落ち、株価も下がってしまいます。 何かする必要があると感じ、それがブランド変更だったと考えられています。

疲弊しきった時に何もしないという選択も時には重要なのかもしれません。 あと、伝統的なブランドの場合は、一番最後にデザイン要素(エレメンツ)の着手にすべきかもしれません。他の問題を片付けてから一番最後でいいのかもしれません。

リブランドの失敗からの教訓

有名な企業でも、リブランディングの失敗が起こっていました。 失敗した後のリカバリーがとても早く、元に戻したり、再度リニューアルをかけたりして、巻き返しをされているのが印象的です。

リブランドの失敗を学ぶことで、多くのことを学ぶことができます。

ロゴなどVIやBIによるブランド認識は大きい

ロゴなどのVIやBIで、全体に関わる本質部分を排除すると、消費者が認識できなる傾向があります。消費者が同じようにあなたを認識し続けることができるように、段階的な変更が必要。

理にかなったものにする

コンセプトやブランド戦略、コミュニケーション戦略があってこそ、デザイン要素(エレメンツ)の開発があることが失敗事例からわかります。

ロゴの刷新は悪いことではありませんが、成功するためには組織の現実の変化やブランドの方向性の変化を反映する必要があります。

Gapのような状況下では、ビジュアルは、戦略の最後のステップであるべきです。新しいロゴが別の問題を解決しない場合は、そのままにしておくのが最善です。

また、近代化やスタイリッシュをテーマにしたミニマルデザインの選択にも注意が必要。 ミニマルデザインはトレンドにもなっていますが、リブランディングでは難易度が高くなります。情報量としては削ぎ落とす必要があり、ブランド資産が何かを見極めて取り入れる必要があります。

ブランディングやブランドにおける成功とは

ブランディングやブランドにおける成功は、どのように認知され、理解され、共感されるかを設計できている状態のことではないでしょうか。

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